大阪地方裁判所 昭和62年(ワ)12389号 判決 1991年8月29日
原告
久保田幸一
右訴訟代理人弁護士
菅充行
同
浦功
同
信岡登紫子
同
下村忠利
被告
エッソ石油株式会社
右代表者代表取締役
エル・ケイ・ストロール
右訴訟代理人弁護士
小長谷國夫
同
今井徹
同
別城信太郎
右小長谷復代理人弁護士
中嶋秀二
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 原告が被告の従業員たる地位を有することを確認する。
二 被告は原告に対し、金六一二三万八〇七三円及び内金三五六八万二一七三円に対する昭和六三年一月一五日から支払済みまで年六分の割合による金員、並びに平成三年四月一日以降毎月二五日限り、一か月当たり金四五万六五五〇円の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 争いのない事実
1 被告は、東京に本社(以下、本社という)を、大阪他数か所に支店を有し、各種石油製品、関連製品の輸入、精製、製造、販売を業としている。
原告は、昭和四五年四月一日、被告に入社し、同四九年八月から被告大阪支店(以下、大阪支店という)傘下の大阪工業用製品支店(以下、大阪製品支店という)潤滑油課に属し、同五〇年九月から潤滑油の販売に従事していた。
また、原告は全国石油産業労働組合協議会スタンダード・ヴァキューム石油労働組合(以下、ス労といい、同組合東京本部を本部という)に加入し、同四九年一〇月から同組合大阪支部(以下、大阪支部といい、同組合各支部を支部という)の役員を歴任し、後記本件解雇当時、執行副委員長であった。
2 被告、ス労間の労働協約(以下、協約という)五条二項覚書は、組合員に重大な影響を与えるような職制機構の改廃、並びに事業所の移転、廃止等、会社の経営上の重要な変動のあるときは組合に通告する旨を規定している(以下、覚書という)。
3 被告は、同五六年一〇月八日、同五七年一月一日付で本社営業本部、各事業所の機構改革(以下、本件機構改革という)を実施する旨を発表し、これを本部に通知した。本件機構改革に伴う大阪製品支店の改組は、従前の製品の種類に応じた燃料課・潤滑油課を廃止し、顧客との取引形態に応じた直売課・販売課を設置するというものであり、原告は直売課へ配置換されることになった。
4 大阪支部は、同五六年一〇月八日、大阪支店に対し、本件機構改革は人員削減につながり、ス労組合員の労働条件に重大な変更をもたらすとして団交要求を行い、大阪支店と大阪支部は、同年一一月二四日以降四回の団交を行ったが妥結に至らず、同五七年一月二〇日、争議確認を行った(本件機構改革に関する団交は本社、本部間、各支店、支部間でも行われた)。
5 大阪製品支店においては、前記のとおり、旧燃料課、潤滑油課員は直売課、販売課の何れかに配置換になるため、被告は、本件機構改革実施に先立ち、旧各課員に対し事務の引継を命じると共に旧燃料課員に対しては潤滑油について、旧潤滑油課員に対しては燃料油についてのトレーニングを計画し、原告に対しても、右トレーニングへの参加や顧客の引継を命じたが、原告は、本件機構改革について労使間の合意が成立していないとの理由で、トレーニング不参加の態度を堅持し、顧客の引継もしなかった。被告は、同年一月一日本件機構改革実施に当たり、原告に対し、直売課への配置換を発令し、その後も再三、同課の業務に就くよう求めたが、原告は右同様の理由により応じないため、同年五月二五日、文書をもって、同課の業務に就くよう業務命令を発したが、原告は従わなかった。そこで、被告は、同年六月二三日、原告に対し、右業務命令違反は就業規則六一条三号(職務上の命令に従わず、職場の秩序を乱したとき)、六二条五号(職場の風紀又は秩序を乱したとき)、一〇号(六一条のうち特に情状が重いとき)の懲戒事由(以下、本件懲戒事由という)に該当するとして、同六〇条三号により同月二四日から同年七月二日まで七日間の出勤停止処分をした(以下、本件出勤停止処分という)。
6 被告は、同年七月五日、原告に対し、新業務に従事するよう業務命令を発し、説得したが、原告は、前同様の理由により従わなかった。被告は、同月一三日、原告に対し、再度右業務命令を発したが拒否されたため、原告の本件出勤停止処分後の業務命令拒否は本件懲戒事由に該当するとし、就業規則六〇条四号により同月一四日付で懲戒解雇する旨通告した(以下、本件懲戒解雇という)。
二 主たる争点
1 本件機構改革に基づく業務命令(以下、本件業務命令という)の適法性
【原告】
本件機構改革は、人員削減による合理化を目的とする社会組織全体の大改組であり、事業所の分割、移転、並びに会社職制機構の改廃の結果、従業員の配転、転勤、担当変更、業務内容の変更を伴うものであるから、覚書所定の組合に対する通告事項であり、大阪支店においても、同改革により、原告は潤滑油課から直売課へ配置換され、担当顧客も全面的に変更になり、取扱経験のない燃料油をも担当する等大幅な職務内容の変更、業務量の増加を余儀なくされるから、被告は大阪支部に対しても本件機構改革を事前に通告し、かつ、誠実に団交・折衝する義務があった。また、原告は当時大阪支部執行副委員長であったから、労働協約三六条五項に基づき大阪支店は同支部との間で、原告の「所属職場の変更」につき団交で協議する義務があった(<証拠略>)。しかるに、被告は右覚書及び右協議義務を無視し、本件機構改革を団交によって改変の余地のない確定方策として、本部に対してのみ通告し、大阪支部との実質的協議に応じないまま強行し、原告に対し配置換を迫り、本件業務命令を繰り返した。したがって、本件業務命令は覚書及び労働協約三六条五項に反し違法であるから、原告にはこれに従うべき義務はない。
【被告】
本件機構改革は、顧客志向の営業方針の徹底とより良いサービスを目的とする合理的かつ業務上の必要性に基づくものである。同機構改革は、ス労の組合員に重大な影響を与えるものではなく、原告の配置換は業務場所・職種の変更を伴わず業務分担の変更にすぎず、新業務は担当商品として燃料課が追加されるが担当顧客が減少するから労働加重とはいえない。したがって、本件機構改革は覚書所定の通告事項に当たらず、仮にそうでないとしても、被告は本部に対し右通告を行えば足り、また、原告の配置換は協約三六条五項所定の組合との協議事項ではない。しかし、被告は念のため本部に対し、事前に本件機構改革を通告し、本社、本部間及び支店、支部間の団交において本件機構改革の内容を説明し、会社的事項は本部、個別具体的事項は支部と団交を尽くした。大阪支店、大阪支部間においても同様である。したがって、本件業務命令は正当であり、原告が拒否する正当理由はない。
2 本件懲戒解雇事由の有無
【原告】
被告が覚書及び協約三六条五項に違反して本件機構改革及びこれに伴う本件業務命令を強行してきたのに対し、大阪支部は、原告に対し、右問題につき協議が成立するまで、本件業務命令に応じないよう指示をなした。そこで、原告は、本件業務命令を拒否したのであり、目的・手段において正当な組合活動であるから、本件懲戒解雇事由に該当しない。
【被告】
原告は、本件機構改革に基づく再三にわたる本件業務命令を無視し、旧業務の一部を強行し新業務に従事しなかった。そのため、大阪製品支店は、社内秩序・業務が混乱し、原告と後任の担当者が一部重複して販売活動を行う結果となり、取引先から苦情が寄せられ信用を失墜した。また、右業務命令拒否が組合活動であるとしても、就業時間中の行為であり第三者にも業務上の悪影響を及ぼす行為であること、本部は同年六月二六日付で大阪支部に対し本件業務命令拒否の中止指令を出しており、原告の右業務命令拒否は組合の統制違反行為であること等に照らすと、原告の本件業務命令拒否は組合活動としても正当性を欠き、労働契約上の服務規律の遵守義務、職務専念義務に違反する。そこで、被告は、前記の経緯のとおり、原告に対し、本件出勤停止処分をなし、更に同年七月五日付で本件業務命令を拒否した場合は相当の措置をとる旨を通告したのち本件懲戒解雇を行った。
3 懲戒解雇権の濫用の成否
【原告】
原告主張の前記1、2の経過及び被告が大阪支部組合員のうち原告に対してのみ本件各懲戒処分を行ったことに照らすと、本件懲戒解雇は権利の濫用に当たり無効である。
【被告】
原告の配置換は、業務上の必要性がないこと、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を原告に負わせること、不当な動機・目的をもってなされたこと等権利の濫用を基礎づける事実はなく、本件機構改革に基づく業務命令を拒否したのは原告のみであるから、本件懲戒解雇は正当である。
4 不当労働行為の成否
【原告】
被告は、原告が当時の大阪支部執行副委員長であり、正当な組合活動として本件業務命令拒否を行ったにもかかわらず、原告を排除すべく本件懲戒解雇を行ったのであるから、労組法七条一号の不当労働行為に該当し、本件懲戒解雇は無効である。
【被告】
本件機構改革により職務内容に変更を生じたのは、原告のみではなく、ス労の他の組合員、別組合の組合員、非組合員も同様であり、原告を狙い打ちしたものではない。
5 原告の未払賃金額等
原告は、請求の趣旨二項の未払賃金等を請求し、被告はこれを争っている。
第三争点に対する判断
一 本件懲戒解雇に至る経過
1 本件機構改革(<証拠・人証略>の全趣旨)
(1) 被告は、同五六年一〇月八日、インフレによる人件費の高騰が生産性を脅かし営業利益を圧縮すること、顧客志向の営業方針を徹底し、組織・人事配置の適正化を図る必要がある等の観点から、全社的規模で営業組織の変更及びこれに伴う人事異動等を同五七年一月一日付で実施する旨を発表し、これを本部に通告し、本部は傘下の各支部・分会に通知した。
(2) 本件機構改革の概要は、大阪支店を含む各支店機構を再構成すること(事業所の分割、移転等を含む)、工業エネルギー、工業用製品、航用製品、特定販売等の各部を再編成し、工業用製品部及び直需部を設置すること等であった。原告が所属していた大阪製品支店営業本部では、取扱商品に応じて区分されていた燃料課と潤滑油課が、取引形態に応じて直売課(消費者販売担当)と販売課(代理店販売担当)に改編されることになり、顧客ごとに別の担当者が燃料油と潤滑油の販売を担当していた従来の取扱は改められ、一人の担当者が両者をそれぞれ担当することになった。
(3) 本件機構改革について、後記のとおり、本社、本部間、支店、各支部間で団交がもたれ、本社は本部に対し、本件機構改革に伴う具体的労働条件、支店固有の問題点は、大阪支店(大阪製品支店、大阪家庭用製品支店、大阪サービスステーション支店、大阪管理事務所の総称)を始めとする各支店が支部・分会と協議する旨を説明した。
(4) 本件機構改革に伴って業務の変更を生じたス労組合員は東京支店に三名いたが、大阪支店では原告のみであった。
2 本件機構改革が原告の業務内容に及ぼす影響(<証拠・人証略>)
(1) 原告は、同五七年一二月当時、大阪製品支店の潤滑油課に所属し、代理店及び直売顧客合計一三社に対し工業用潤滑油の販売を担当していたが、本件機構改革後は直売課に所属し、直売顧客六社と見込顧客三社に対し工業用潤滑油及び工業用燃料油の販売を担当することになった(以下、本件配置換という)。
(2) しかし、原、被告間の雇用契約では労務内容に限定的合意がなく、本件配置換により原告の職種・勤務場所の変更はなかったこと、担当顧客数が一三社から九社に減少し、従来担当していた潤滑油の仕事量も減少したこと、右直売顧客六社のうち三社は潤滑油のみであり燃料油を扱っておらず、他の三社も特定の重油(A重油)を小規模に販売していたのみであったこと(同五七年六月一日付で原告の前年度の担当顧客三名を含む九社の顧客に担当換となったが一社は殆ど取引はなかった)等から、右配置換は実質的に業務分担の変更であり、原告の業務負担量が加重されるとはいえなかった(ちなみに右燃料油には多種類の銘柄があり、取引量、出荷場所、配送関係、支払条件等は各顧客ごとに異なっており、原告にとって新たな知識等の習得、習熟が必要であることは認められるが、被告では従前から担当商品が変更されることもあり、右程度の負担は業務分担の変更に通常伴うものであるから、原告の労働が加重されたということはできない。)
3 被告の業務命令と原告の態度及びその影響等(<証拠・人証略>)
(1) 大阪製品支店の支店長島村治、課長煤田倶三、同渡辺慎一は、同五六年一一月二〇日頃以降、こもごも原告に対し、本件機構改革により同五七年一月一日から担当業務が変更になるから、燃料油販売に関するトレーニングに出席すべきこと、代理店顧客等の引継手続をすべきこと、新担当顧客関係の営業をすべきこと、旧担当顧客訪問の禁止等を指示した。これに対し、原告は、被告においては、本件機構改革についてス労支部の同意や覚書所定の事前協議を経ていないから、撤回すべきであるとの理由により右業務命令に従わず、大阪支店において、唯一、旧担当業務(内勤業務等を含む)を本件懲戒解雇まで継続した(当初新業務を拒否していた他の従業員は同五七年二月以降新業務に就いた)。
(2) 島村支店長は、同年五月二五日、原告に対し、書面で「同年一月一日付で直ちに直売課業務に従事し、支店長が指示する顧客を担当するように命じる。本命令に従わない場合には適当な措置をとる」旨の業務命令(以下、五・二五付業務命令という)を発したが、原告はこれを拒否した。
(3) 被告は原告に対し、同年六月二三日付で原告の一連の業務命令拒否が本件懲戒事由に該当するとして、本件出勤停止処分をなしたうえ、同支店長は七月五日付で業務命令書を交付し、これに応じない場合はしかるべき措置をとる旨を通告したが、原告はこれも拒否した。
(4) 原告は、同年七月七日、潤滑油説明会への出席を希望したが、被告側は新担当顧客の引継が最優先であるとしてこれを指示したところ、原告は本件機構改革に関する労使間の解決が先決であるとしてこれを拒否した。
(5) 渡辺課長は原告に対し、同月一三日の午前中まで担当業務の引継・新業務の担当を再三指示したにもかかわらず、原告は右同様の態度をとった。そこで、被告は被告MDC(幹部育成委員会)の決定に基づき、同月一三日午後四時三〇分頃、原告に対し、同月一四日で本件懲戒解雇の意思表示をした(本件機構改革に基づく業務命令違反を理由に懲戒解雇された者は他にいない)。
(6) この間、原告は被告の再三の指示を無視して旧担当顧客に対する営業を継続したため、同年二月頃、顧客から担当者が不明確である旨の苦情があり、担当課長は新担当者を同行し謝罪した。また、原告は旧担当者の顧客の引継を拒否したため、旧担当者は二重の業務を遂行せざるをえず、原告の業務命令拒否に対する被告の処置は甘いとの内部批判も生じた(ちなみに、被告は原告が旧担当顧客を訪問したことによる旅費等を精算しているが、右は原告の現実の出捐を事実上精算したものにすぎず〔<人証略>〕、被告が原告の旧業務の担当を承認していたと認めることはできない)。
4 ス労支部と被告支店との団交経過等
(1) 同五六年一〇月八日から同年一一月中旬までの経過(<証拠略>)
大阪支部は、被告が本件機構改革を撤回し、改めて覚書の事前通告手続等を経由すべきとの観点から、大阪支店に対し、同五六年一〇月八日付で本件機構改革につき団交を申入れた。しかし、同支店は同改革に伴う同支店内での具体的人事・配置等が未決定であったことから団交に応じなかった。
(2) 同五六年一一月二四日付団交(<証拠略>)
大阪支部は前記同様、本件機構改革を撤回すべき旨を主張した。これに対し、大阪支店は、本件機構改革は全社的問題であるから本社、本部間で団交し、大阪支部との間では同支部組合員の具体的労働条件等に限定して団交を行うこと、本件機構改革により労働条件等に重大な影響を受ける同支部組合員はいないこと等を説明した。
(3) 同年一二月一四日付団交(<証拠・人証略>)
大阪支部は、覚書違反について追及したうえ、本件機構改革の必要性として被告が提示した「インフレによる人件費の高騰は生産性を脅かし営業利益を圧縮する」等という部分は、賃金の抑制、人員削減、労働強化を目的とするものであるとし、団交が終わるまで本件機構改革に伴うトレーニング、引継を撤回すべき旨を主張した。これに対し、大阪支店は現時点で人員の削減はなく、大阪支部組合員の具体的労働条件について団交したい旨回答した。
(4) 同五七年一月一八日付団交(<証拠・人証略>)
大阪支部は、覚書違反について追及したうえ、本件機構改革が人員削減、労働条件低下をもたらし、原告にも重大な影響を及ぼすとしたうえ、原告に対する業務引継命令を撤回すべきことを主張した。これに対し、大阪支店は本件機構改革により原告に重大な労働条件の変更があれば、当該事項につき具体的に団交する旨を述べたところ、同支部は、労働条件に関する具体的指摘をせず、本件機構改革に関して争議行為を行う旨表明した。
(5) 同年一月二〇日付団交(<証拠・人証略>)
大阪支店と大阪支部は、本件機構改革に関する双方の主張が平行線を辿ったことから、同支部の要求により争議確認がなされた(同支部は同月二八日付で本件機構改革について団交要求をしたが、同支店はこれを拒否した)。
(6) 同年五月以降の団交(<証拠・人証略>)
大阪支店は、同年五月下旬頃、大阪支店に対し、原告に対する五・二五日付業務命令に抗議し団交を求めたところ、同支店は業務命令は個人の問題であるとして団交を拒否した。また、同支部は、被告が原告に対し、本件出勤停止処分をなしたことにつき、同年六月二四日以降数回にわたり、団交を求めたが、同支店は同様の対応をした。
(7) 同年七月五日付団交等(<証拠・人証略>)
大阪支部と大阪支店は、同五七年六月二四日から七月上旬にかけて、原告に対する本件出勤停止処分について団交したが平行線を辿った。そして、同年七月五日の団交において、同支部は、本件機構改革については覚書の適用があること、本件業務命令及び本件出勤停止処分の不当性、原告の業務拒否は同支部の命令に基づく組合活動であること等を主張した。これに対し、同支店は、本件機構改革に伴う重大な労働条件の変更はなく覚書の適用はないこと、右処分の根拠は本件業務命令拒否であること、原告が新業務に就いたうえで労働条件に重大な影響が生じればその時点で団交を実施すること、本件機構改革による労働条件に異議があれば指摘すべき旨を主張した(同支部の具体的指摘はなかった)。結局、被告と同支部は平行線を辿ったため、前記同様、争議確認をなした。同日以降も原告及び大阪支部の基本的立場に変更はなかった。
5 ス労の態度と大阪支部及び原告の関係(<証拠・人証略>)
(1) ス労、本件機構改革は人員削減・労働強化を目的とするもので、組合員の労働条件に重大な影響を及ぼすものとし、本社と同五六年一〇月から一二月までの間五回にわたり、本件機構改革自体に関する団交を行う一方、同年一一月四日付で各支部・分会に対し、支店単位の本件機構改革の具体的内容・労働条件の変更に関する団交を指示した。これに対し、大阪支部は大阪支店に対し、本件機構改革自体の撤回についても団交を要求した。
(2) 被告が同年一二月七日頃本件機構改革に基づく新担当業務に関する辞令を各従業員に交付しようとしたところ、ス労は組合員に対し辞令の一斉返上を指示し、原告もこれに従った。
(3) 大阪支部は、同五七年二月二四日、本部に対し、原告に対する本件機構改革に伴う業務命令拒否指令を発するように求めたが、本部は拒否した。そこで、同支部は自らの判断で原告に対し、同月三月頃、業務命令拒否指令を発した(大阪支店で業務を拒否したのは原告のみであった)。その後、本部は、同五七年六月二六日、原告の業務命令拒否闘争につき撤回の指令を出し、原告に対してもこれ以上の右闘争は解雇処分となる虞があるとして中止するように説得したが、大阪支部と原告はこれを拒否した。却って、同支部は本部の意向を無視し、同年七月二日付で原告に対し業務拒否指令を出し、同月六日付通告書で「大阪支部は本件機構改革に反対し、原告に対し業務拒否指令を出した」旨を被告に通告したことから、原告も業務命令拒否を続行した。これに対し、本部は同支部に対し、再度、原告に対する業務命令拒否指令を直ちに解くように指令を発したが、同支部及び原告はこれを拒絶した(原告は、同五七年一〇月、大阪支部の組合員らとス労を脱退し、スタンダード・ヴァキューム石油自主労働組合を結成したが、同年七月当時はス労の組合員としてその統制を受ける立場にあった)。以上のとおり、ス労は本件機構改革及びこれに基づく業務命令を最終的に黙認したが、大阪支部及び原告は同調しなかった。
二 業務命令の適法性
1 前記一1(1)認定の事実によれば、被告は、顧客志向の営業方針とサービスを徹底し販売活動を効果的に遂行する営業体制を再構築するという観点から、本件機構改革を実施したものであり、その合理性・必要性は肯認するに足り、前記一2(2)認定の事実によれば、本件配置換は労働契約を不利に変更するものでもないから本件業務命令は適法というべきである。
2 原告は、本件機構改革が覚書に該当する会社組織全体の大改組であったのに、被告はス労支部に対し事前通告せず実質的協議にも応じなかった等として本件機構改革に基づく業務命令の適法性を争っている。
(1) しかし、覚書はス労各支部に対する通告義務を規定していないところ、前記一1(1)認定の事実のとおり、被告は同五六年一〇月八日本部に対し、同五七年一月一日実施の本件機構改革を相当期間を定めて事前に通告し、実施までの間団交を重ねているから、覚書違反の問題は生じないというべきである。
(2) ス労支部との関係で覚書の適用があるとしても、通告義務の対象となるのは、支部組合員の労働条件と密接な関係を有し、これに重大な影響を及ぼす事項に限ると解されるところ、前記一1、2認定の事実によれば、大阪支部において、本件機構改革に伴って業務内容に変更を生じるのは原告のみであるうえ、業務の負担が従前に比較して加重になると認めることはできない。そうすると、被告において覚書に基づく通告義務があったとはいえない。
(3) なお、被告において支部に対し、本件機構改革につき通告義務があるとしても、被告は支部との間でも、本件機構改革につき、同五六年一一月、一二月の段階で団交を行っていることは前記一4認定のとおりであるから、実質的に右通告の意義は満たされているというべきである(後記3(3)の交渉経過に照らすと、大阪支店の交渉態度に誠実性を欠くということもできない)。
3 原告は、被告は組合執行部との間で本件機構改革に基づく原告の所属職場の変更につき、協約三六条五項に基づき団交で協議する義務を怠ったとして本件業務命令の適法性を争っている。
(1) 協約三六条五項は、ス労支部の組合三役(委員長、副委員長、書記長)の転勤につき、労使が充分誠意を尽くして協議する旨の合意にすぎず(<証拠略>)、前記一2認定の事実によれば、本件配置換は転勤ではないから、右協約の適用がないことは明らかである。
(2) (証拠略)には、大阪支店とス労支部が同四八年六月五日付で「大阪支店の組合三役の転勤及び所属職場の変更については労働協約三六条に基づき団交で協議する」旨の合意をした旨の記載(確認書)があるけれども、反対趣旨の証拠(<証拠略>)に照らすと、右確認書の真正な成立を認めることは困難である。
(3) そして、前記一1認定の事実によれば、本件機構改革は被告会社全体に関するものであって、大阪支店は本件機構改革の改廃に関する処分権限はなく、同支店は本件機構改革に伴う同支部組合員の具体的労働条件等に関係のある事項につき同支部の団交に応じれば足りるところ、前記一4認定の事実によれば、同支部は同支店に対し、本件機構改革の撤回を目的として団交を行い、原告らの具体的労働条件に及ぼす問題点を指摘せず推移し、両者の主張が平行線を辿ったため争議確認をしたというのであるから、被告は同支部と協議を尽くしたものと解するのが相当である。
4 よって、被告の原告に対する本件業務命令は適法である。
三 本件懲戒解雇事由の存否
前記一3認定の事実によれば、原告は被告の再三にわたる適法な業務命令を約半年間にわたって無視し、本件機構改革に伴う担当業務の引継等を拒否し、旧担当業務を継続したのであるから、著しく被告の企業秩序を乱したと認められ、同所為は本件懲戒事由に該当し、本件出勤停止処分及び本件懲戒解雇(同六〇条四号)には客観的、合理的な理由があるといわなければならない。
この点につき、原告は、被告において覚書の通告義務、協約所定の協議義務を無視して本件機構改革を強行したのに対し、大阪支部から原告に対し、被告との協議が成立するまで本件業務命令を拒否するように指令があったため、これに従ったのであり、本件業務命令拒否は目的・手段において正当な組合活動であるから、本件懲戒事由に該当しない旨主張する。
しかしながら、原告の行った本件業務命令拒否が同支部の指令に基づく組合活動であったとしても、前記説示のとおり、被告に、本件機構改革実施について覚書・協約違反は認め難く、本件業務命令は適法と認められること、他方、同支部の右指令は、本社、本部間の団交事項である本件機構改革それ自体の撤回を求める闘争の一環として、本部の意向に反しても継続して行われたこと、そして、原告の本件業務命令拒否を組合活動とするならば、それは勤務時間中に行ったと言わざるを得ないことが認められる。
そうすると、原告の本件業務命令拒否は、正当な組合活動であって、本件懲戒事由に該当しないと認めることはできない。
四 解雇権の濫用の主張について
原告は、被告の覚書、協約三六条五項違反、原告の業務命令拒否が組合活動であること、原告のみが懲戒解雇処分を受けたこと等を理由として本件懲戒解雇が権利の濫用である旨を主張する。
しかしながら、前記二、三説示のとおり右違反や組合活動の正当性を認め難いうえ、本件機構改革に基づく業務命令を最後まで拒否したのは原告のみであった(前記一3(1)認定事実)ことを総合すると、右主張は失当である。
五 不当労働行為の主張について
原告は、本件懲戒解雇は原告が組合員(執行副委員長)であることや組合活動を行ったことを理由に行われたと主張する。
前記一認定の事実、証拠(<証拠略>)によれば、大阪支店における同支部組合員中、本件機構改革による業務分担の変更等が生じたのは原告のみであり、また、本件機構改革に伴う業務命令違反により懲戒解雇された者は原告のみであったこと、原告が大阪地労委に対し、同五七年七月八日付で本件出勤停止処分につき救済命令の申立をしたところ、被告は、同月一三日、本件懲戒解雇をしたことが認められる。しかし、前記一認定の本件懲戒解雇に至る経過等に照らすと、右主張は理由がなく、他に労組法七条一号の成立を認めるに足りる証拠はない。
第四結論
よって、原告の請求は失当である。
(裁判長裁判官 蒲原範明 裁判官 市村弘 裁判官 岩佐真寿美)